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ピザ生地からパン粉まで

2021.08.24

ワクチン接種2回目終了

経過観察中、時間があるんで

ちょっとした生地の物語をひとつ

 

 

イタリア生まれのナポリ育ち

長時間発酵で強さを発揮するカプートって強力粉

ミネラルたっぷりシチリアはトラパニの海塩

生イースト

日本橋の水道水

タンブレッロの生地はこれだけでできてます

カラブリアじゃジャガイモも入れたし

砂糖だ油脂だと足すのは簡単だけど

何も引けない

これ以上は引けないミニマムな原料だから

イースト量も水温も大事になる

塩分量も室温も大事になる

もちろん湿度や室温も

我が子のように大事に作ってる

愛する人に触れるように

優しく扱っている

 

僕は朝も夜も同じ生地を扱います

お前さんの彼女に朝と夜の顔があるように(笑)

生地も表情を変える

薄化粧の女性がスッピンとのギャップが少ないように

生地の表情をできるだけ調えるのは低(薄)イースト

栄養が少ない方がしなやかに、ゆっくりと老いていくの

 

ピッツァ生地として産まれたからには

立派なピッツァマルゲリータや

シンプルで渋いマリナーラ、

蜂蜜でドレスアップしたクアトロフォルマッジオになって

あのポーランド娘をメロメロにしたる

そんな妄想をイーストで膨らましながら生地達は番重の中で発酵してる

 

でもさ

ピッツァとして生涯を終えることが出来る生地もいれば

もはやこれまでとイースト発効の臨界点でピッツァになる人生を諦める生地もいる

しかーし、しかーしだよ

野球選手になれなかったら人生終わりか?

K2登頂出来なかった者は敗者か、

愛しいあの娘に降られた夜に人世は終わるのかい?

ただ海を見ていたジョニーは人世の敗者か、

 

嘘をつく奴は嫌いだ

陰で人の悪口を言う奴も嫌いです

物を盗む奴

出来ない理由を探す男も嫌いだ

同じ理由で

生地を捨てる奴嫌い

 

当店でピッツァになれなかった生地達の熱い思いは語り継がれる

語り部は職人

パニーニ、

フォカッチャ、

パン

タンブレッロの低イースト発酵で育った生地達

厳しい環境で育った生命力は

4,5日経っても残りわずかな糖分で皆冷蔵庫内で生きている。

再生への道は職人の腕の見せ処

翌日ぐらいの生地はフレッシュな生地にくっつけて使うと、熟成された旨味が乗っかって味わい深くなる

二日目からはパニーニ用のパンやフォカッチャになる、もともとグルテンを出さないように練った生地はこの頃になると火の力に素直で外側のパリッと感は、ハンパないっす先輩

 

 

 

 

三日目から四日目、冷蔵庫の底にある生地の最後は窯焼きパン

一キロ位の塊にしたらグイグイ巻き込んでいく、死んでいたはずの生地に新しい空気が入って、残り少ない糖分でもう一度イースト活性するんだ。本当だよ、薪窯で焼かれたパンは香ばしく武骨で男らしい

 

 

 

 

 

戦場で死ねなかった武士の最期の勇姿とでも申しましょうか、お売りすることは出来ません……何故ってお嬢さん

「これパン粉にするんですから❗」

 

 

 

「うちはただのピザ屋じゃありません、フリッジトーリア(揚げ物屋)って看板掲げてますからね、っそりゃパン粉だって自家製ですよ」

ピッツァ生地として産まれたがサラサラ流れる小川みたい、最後はパン粉として終わる人生も悪くないさね

ピッツァ生地の塩味がのった自家製のパン粉がコロッケやパルミジャーナを美味しくしてくれるのです

 

言いたかったのはね

コロナ渦で、敗者か勝者かなんて馬鹿げてるってこと

皆が誰かの何かの役に立っている

ピザ生地からパン粉まで

捨てる人生なんて世の中に無いわ

 

 

残暑厳しいね

お身体ご自愛ください

 

YOSHIHISA OTSUBO

 

 

 

 

 

 

午前4時のコルネット、11周年

2021.08.05

深夜零時のvia giustiniano a Napoli

後片付けしてる

油、小麦粉、吸殻とシンク一杯の洗い物

客達のお喋りの残り香

「Yoshi ,oggi e Sabato」

アンジェラ

そう今夜は土曜日だもの

 

仕事の後の賄いだって

土曜日の夜はピッツァって決まってる

今夜は500枚も600枚も焼いたミンモの薪窯に薪は要らない

ジーノが言う

「fino e bencotta」薄~く良く焼きで😉✨

ナポリピッツァはモチモチが美味いって日本だけ(笑)

美味しいピッツァのおまじない fino e bencotta

小麦粉を食べる歴史と文化がある国はしっかり焼くの

「美味いだろ」とリーノ

深夜のピッツァをペローニで流し込んで

さあ出かけよう

 

いつもの輩、朝も昼も夜も

明日も、多分明後日も

ジーノ、リーノ、

その友達のマッシモが二人と

アンドレアにパオロ

彼女も家族もうっちゃって、今夜は朝まで遊ぶ

15時間働いてから遊ぶ(笑)

店の前にフォードとフィアット

乗り込んで夜の街へ

ナポリからバニョーリ、海沿いを男達が行く

お喋りなナポリ人、車内にあふれるお喋り

でも誰も他人のお喋りは聞いてない

聞いてるふりして自分の話

この街に聞き上手なんているんだろうか

キリストは黙してあなたの話をきいてくれる

カトリックの国

だから教会は必要

マッシモが車内で屁こいた(笑)いつものこと

「Madonna mia aria !」空気をくれ~

ア~リア~

30過ぎの男共が車から身を乗り出して

Aria! Aria !Aria!の大合唱

土曜日の夜

 

深夜2時

海沿いのバール

着飾ったカップル

モトリーノに乗った若い男女のグループの中で

30過ぎのオッサングループは異様

ジーノの馴染らしく、バリスタは愛想が良い

何をするかって?

ドルチェを食べるんだ

皆で真剣にショーケースを眺める、

ジェラートにアラゴスタ、

ババにカンノーリ

ジーノはエクレアがおすすめだと言う

さっきまでフライヤーの前で揚げ物してたのに

海を見ながらエクレア食べてエスプレッソ飲んでる

ナポリでは日常が劇的だって思う、

街っていう舞台装置があって

人は皆自由にお喋りして、

それぞれの小さな幸せを大袈裟に表現する

ヴェスヴィオのせいかしら

ポンペイの昔から世界は一瞬で灰になるって知ってるから

 

帰り道、リーノが朝飯を買うと言う

暗がりの中、オレンジ色の街灯に照らされた倉庫みたいな建物

パスタスフォリアとブリオッシュの焼ける匂い

職人がコルネットを焼いていた

「クレマかチョコラートか?」

「チョコラート….」

熱々のコルネット

まだ油脂が冷えてないからフワフワしてる

一口齧れば、チョコの洪水、最高

皆、口と手をベタベタにしながら

午前4時のコルネット

明日の朝飯だとジーノがお土産を買ってくれた

クレマとチョコラート

職人の手仕事の素晴らしさよ

20年も前の話

何でもない話

 

 

2010年の8月4日に生まれたタンブレッロ

コロナ渦の中、静かに11年を迎えました

仕事終わりに海辺でエクレア食べないし

朝帰りとかもうしない

今、人生は劇的でもロマンチックでもないけど

まだ旅人でいれてる思います

だって世の中は知らない人と

知らないことだらけなのだから

 

お陰さまで自分が出来ること、出来ないこと

やりたいこと、やりたくないこと

そして天から与えられた使命みたいなもんも

このコロナ渦で感じることができました

自分の出来るこの手作業を徹底的にやり通して

未だ知らない世界にコミットしていく

未だ知らない人との出会いもそこにはあるのでしょう

それを僕は旅と呼ぶことにするんだ

19歳でシベリア鉄道に乗った

今、僕の旅には

家族がいて、スタッフがいて、大切な仲間がいる

コルネットから溢れてくる

チョコレートみたいに

幸せと感動が溢れてくる人生を

みんなと

これからもね

 

 

YOSHIHISA  OTSUBO